出光昭介手記(週刊現代6月24日号掲載)

※以下は、週刊現代6月24日号に寄稿した出光昭介の手記ですが、週刊現代編集部のご承諾を頂いて転載させて頂くものです。週刊現代のサイトはこちら

 出光興産と昭和シェル石油との経営統合をめぐってお騒がせしておりますことについて、まずは心よりお詫び申し上げます。
 私としては、この経営統合には反対であり、その気持ちが変わることはありません。経営統合に反対する理由については、これまで、私の代理人の鶴間弁護士から様々な形ですでに説明してもらっておりますが、今回、このような機会を頂きましたので、改めて、これまでの経緯を振り返るとともに、私なりの言葉で、なぜ経営統合に反対しているのかということについて、述べることとしたいと思います。

 私の父の出光佐三は、戦後、日本の石油元売各社が、国際石油資本の傘下に入る中、出光興産が民族資本の石油元売会社であることにこだわり続けました。そのために、筆舌に尽くしがたい多くの苦難があり、事業存続の危機を迎えたこともありましたが、社員・販売店と一体となってこれを乗り越えてきました。
 父が、出光興産が民族資本の会社であることにこだわったのは、国際石油資本による市場の支配を打破し、消費者が、よりよい条件で石油を入手することができるようにしたいという思いとともに、国家のエネルギー政策上も、国際石油資本に依存せずに石油を供給することができるようにしなければならないという思いがあったからです。父は、自社の利益だけではなく、常に、消費者や国家のことを考えて事業を行ってきました。そして、父は、何があっても、この理念を変えることはしませんでした。出光興産はこのような父の理念を受け継いで、これまで事業を営んできたわけです。父の理念は、「人間尊重」「独立自治」「消費者本位」といった様々な言葉で受け継がれ、今もなお、出光興産の理念として生き続けています。
 私は、この出光興産の理念を守り続けなければならないという強い思いを持っております。しかし、誤解をしていただきたくないのは、決して理念を守ることだけを目的として、経営統合に反対しているわけではありません。出光興産は、その理念こそが強みであります。出光興産がここまで成長することができたのは、経営陣・社員・販売店が理念を共有し、一体となって事業を行うことができたからです。そして、出光興産の理念に社会から共感、評価を得られたことが、消費者の皆様からの出光興産の支持につながっていると考えています。これを失ってしまっては、出光興産が社会から評価される会社であり続けることは難しく、他の会社との差別化を図ることもできないと考えるわけです。今般、石油市場の縮小への対応が、経営統合の理由とされているようですが、だからといって、出光興産が理念を捨て、自己否定をしてしまうと、取り返しのつかない損失が発生すると考える次第です。

 昭和シェル石油との件について、私が最初に話を聞いたのは、平成27年の夏のことでした。そのときは、昭和シェル石油を飲み込む合併という話でしたので、とりあえず様子を見ましょうということを申し上げました。そして、その後特に話がなかったのですが、突然、同年11月に出光興産と昭和シェル石油が対等の精神で経営統合をすることになったと知り、大変驚きました。会社側は、経営統合を一旦了承していた私が、途中で心変わりをして反対し始めたかのような説明をしているようですが、それはまったく事実に反しています。
 経営統合の話を聞いて、私はすぐに、月岡社長に、経営統合に反対であるという書簡を送ったのですが、実際に月岡社長と面談するまでには、かなりの時間を要しました。その後も、月岡社長以下の経営陣が、私たち創業家の経営統合への反対の意見に対して、真摯に向き合っていたとは思えません。経営統合が決まるまでに、私たち創業家の話をしっかりと聞いてもらう機会があれば、このような大事にはならなかっただろうと思いますので、そのことが残念でなりません。

 私が昭和シェル石油との経営統合に反対する理由は、鶴間弁護士から会社に伝えてもらっているように、大きく3つあります。
 第一に、出光興産と昭和シェル石油の体質・社風の違いです。民族資本の会社として独自の理念を大事にして事業を行ってきた出光興産と、国際石油資本の一つであるシェルの傘下で事業を行ってきた昭和シェル石油は、その体質や社風が大きく異なっており、両社を融和させるのには非常に大きなエネルギーを要します。そのことを考えると、経営統合をしたとしても、実際に成果を上げることは極めて困難です。また、経営統合によって実際に出光興産にメリットがあるのか不明ですから、経営統合にエネルギーを割くのではなく、出光興産がその理念を守り続ける形での事業を模索すべきです。
 第二に、経営統合によってサウジアラムコからの出資を受けることになる点です。石油利権を握る国際石油資本と一線を画してきた出光興産の歴史的意義を没却することになります。このことは、先に述べたような出光興産の強みを失わせるものであって、大きな損失をもたらすものと考えます。
 第三に、経営統合は生産者間の競争を減らすために行われるものであると考えられます。出光興産は、これまで消費者本位、すなわち、消費者の利益を第一に考えて事業を行い、また、事業を通じて社会に貢献することを目指してきたはずです。そうであるにもかかわらず、自社の利益を守るために、生産者間の競争を減らし、石油製品の価格を高止まりさせようとしているのは、大変残念ですし、消費者の理解を得られるものではないはずです。

 昭和シェル石油との経営統合が、出光興産の追い求めるべきものに反していることは、すでに述べたとおりですが、そのことを鶴間弁護士の前任者の時から再三会社に伝えてきたにもかかわらず、月岡社長以下の経営陣は、経営統合を行う考えを改めようとしてくれません。主要な株主が経営統合への反対を表明しており、経営統合に必要と思われる合併の承認を得られる見込みがないにもかかわらず、そのように経営統合に固執するのは、経営者として理解できません。
 月岡社長以下の経営陣がそのように経営統合に固執するのは、経営統合のため、市場価格を大幅に上回る価格で昭和シェル石油株式31・3%を取得してしまったからではないかと推測しています。
 確かに、いまさら昭和シェル石油との経営統合を止めれば、その取得した昭和シェル石油株式について、損失を出さずに処分するのは困難でしょうし、処分せずにそのまま塩漬けにするのは、会社資金に係る明らかな機会損失です。しかし、昭和シェル石油株式の取得費用は、すでに支払ってしまったものであり、それに囚われて、将来に向けてなすべき選択を誤るべきではありません。経営者は、「過ちを改むるに憚ることなかれ」でなければならないのです。月岡社長以下の経営陣が、もし昭和シェル石油株式につき責任を負うのを恐れて、経営統合を撤回できないのであるとすれば、経営者として明らかに失格です。

 6月29日に出光興産の定時株主総会が開催される予定です。先日、鶴間弁護士が記者会見で説明しましたとおり、私たち創業家は、月岡社長以下、5名の取締役候補の選任に反対することといたしました。私は、月岡社長ともかつて共に働いた関係にありますから、できる限り円満に解決したいという気持ちを持っており、そのように代理人にも伝えていましたので、今回、このような形をとらざるを得なくなったことは決して本意ではありません。
 しかし、私としましては、社員、販売店、株主の皆様にご迷惑をかけている状況が続くことを避けなければなりません。できるだけ円満な形で、話し合いによって出光興産と昭和シェル石油との経営統合を断念してもらえないかと模索してきましたが、現経営陣の考えには変化がないようですので、出光興産が速やかに新たなる途に進むべきであるという私の思いをより明確に伝える必要があると考えました。また、それ以外にも、海外事業の失敗が重なるなど、このまま現経営陣に出光興産の経営を委ねるわけにはいきません。そこで、今回、定時株主総会で取締役候補の一部の選任に反対することとした次第です。

 以上、私の考えを述べさせていただきましたが、一刻も早い事態の収束を願っております。皆様のご理解とご協力をお願い申し上げます。